大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸家庭裁判所明石支部 昭和37年(家)203号 審判 1965年2月06日

申立人 山中きよ子(仮名)

相手方 上田京子(仮名)

相手方 本田修(仮名)

右法定代理人後見人 上田辰男(仮名)

主文

一、被相続人本田吉男の遺産を次のように分割する。

一、別紙第一目録記載(1)(2)の不動産を申立人が取得し、該(2)の不動産を林たみ夫婦が従来使用してきたことに基く、林たみに対する損害賠償請求権(昭和三七年三月一日以降その明渡ずみに至るまでの間の一ヶ月につき金三、五〇〇円の割合の金員も申立人が取得する。

一、別紙第二目録記載の株券を申立人が取得する。相手方上田京子、相手方本田修は該株券を申立人に引渡せ。

一、審判調停費用はこれを五分し、その一を申立人の負担とし、その余を相手方らの連帯負担とする。

理由

本件申立の要旨は、被相続人本田吉男の遺産について、相続人間に分割の協議が整わないので、右遺産分割の審判を求めると云うにある。

よつて、相手方上田京子に対する本人尋問の結果に、本件及び当庁昭和三六年(家イ)第一八号遺産分割調停事件の各記録添付の証拠資料、本件における家庭裁判所調査官の調査報告書、鑑定人田辺好作成の鑑定書を綜合すると、以下の事実を認めることができる。

一、相続人

被相続人本田吉男の相続人は次の者である。

(一)  申立人山中きよ子

被相続人と同人の先妻タキとの間に大正一〇年一二月一〇日出生した者。昭和二三年八月五日、山中作男と婚姻して現在に至る。夫婦の間に二女一男があり、夫は鉄工業を経営している。

(二)  相手方上田京子

被相続人と同人の後妻つるとの間に昭和七年二月二四日出生した者。昭和二九年一月一八日上田辰男と婚姻して現在に至る。夫婦の間に一女二男(次の、本田修を含め)があり、夫は○○製鉄株式会社に勤務している。

(三)  相手方本田修

被相続人と昭和三六年二月二四日養子縁組した者

昭和三四年八月三〇日に上田辰男と上田京子の二男として出生し、昭和三六年九月一二日神戸家庭裁判所明石支部の審判により、父上田辰男がその後見人となる。右養子縁組の前後とも実父母のもとで養育されている。

二、相続開始時である昭和三六年三月七日当時の被相続人の遺産として認定できるものは次のとおりである。

(一)  不動産

(1)  ○○市○町八三番の七

一、宅地四坪二勺(相続開始時の時価一六万四、〇〇〇円)

(2) ○○市○町八三番の一地上

家屋番号弓町一番の三

一、木造瓦葺二階建店舗兼居宅一棟

一階二階とも各四坪二勺(相続開始時の時価八万〇、四〇〇円)

右の評価については次のことを補足する。

記録中の不動産登記簿謄本によると、これらの不動産には抵当権等の負担の登記があり、それらの抵当債務がなおいくらか残つている可能性がある。しかし、その債務はこの遺産分割とは別に、各相続人が法定相続分に応じて法律上当然に負担している。したがつて、ここでの評価では、この債務額を顧慮していない。

次に、(2)の家屋には林たみが居住し、同所で夫婦でうどん飲食店を経営しているが、このことについて、明石簡易裁判所昭和三三年(ハ)第二三号家屋明渡等請求事件記録(原告は本件被相続人、被告は宮田三郎と林たみ)、同庁同年(ユ)第四三号調停事件記録(申立人は林たみ、相手方は本件被相続人)がある。これらの記録によると(2)の家屋は、はじめ、被相続人が宮田三郎に賃貸していたが、同人が昭和三三年一月頃、その賃借権を林たみに譲渡したことから被相続人との間で紛争を生じ、翌二月被相続人から宮田に対し契約解除の意思表示をし、林に対しその賃借権を否定し、このようにして建物明渡請求の前記訴訟に及んだ。そこで、同年五月、林は賃貸の承諾を求めて前記調停の申立をしたが、結局、昭和三四年一月二八日調停が成立し、翌二九日に、前記の訴も、右調停成立を理由として全部取下げられた。ところで、この調停の内容は、申立人林において本件被相続人に対し、昭和三三年二月以降この家屋の明渡義務があることを認め、昭和三七年一月末日限り明渡すこと。申立人林は本件被相続人に対し、昭和三三年三月分より一ヶ月金三、五〇〇円の、家賃相当損害金の支払義務があることを認めこれを支払うこと等を骨子とするものであること、以上の各事実を認めることができる。このことからみれば、林は(2)の家屋について賃借権を有するとは認め難いから、本件の評価でも、賃借権がないものとして取扱い、いわゆる借家権の価格を顧慮していない。

(二) 銀行預金

○○銀行○○支店における被相続人名義の普通預金(利率日歩六厘。相続開始時の預金高二三万一、四二〇円)。

(三) 株式とその相続開始時の価格

(1)  日本石油株式会社株券一一〇〇株(単価一三七円、総額一五万〇、七〇〇円)

(2)  日清紡績株式会社株券一三〇株(単価二四二円、総額三万一、四六〇円)

(3)  味の素株式会社株券四二〇株(単価六九〇円、総額二八万九、八〇〇円)

(4)  いすず自動車株式会社株券二五〇株(単価一五〇円、総額三万七、五〇〇円)

(5)  東京電力株式会社株券五〇株(単価五〇六円、総額二万五、三〇〇円)ただし五〇株券一枚のもの。

(6)  住友金属工業株式会社一七二八株(単価六五円、総額一一万二、三二〇円)

(7)  大阪瓦斯株式会社株券二五〇〇株(単価七〇円、総額一七万五、〇〇〇円)

右のうち、(3)、(6)、(7)の株数については相続人の間に争があつたが前記のとおり認定できる。

なお、本件で、被相続人は他にももつと多種且つ多数の株式を有していたのではないかの疑問はあるので、そのことにつき被相続人が記載したと認められる三冊のノートにふれておく。その一つは、日本毛織株式会社等の文字が印刷してある紙でカバーしてある大学ノートの大きさのものである。これには昭和三四年一〇月二日から昭和三六年二月末に至るまでの間の株式のほぼ毎日の価格を、各銘柄別に克明に記載し、増資新株の払込、株式処分等についても若干記載している。さらに、その昭和三五年一二月二八日と昭和三六年一月四日の各欄の間に、昭和三六年一月一日現在株数有高と表示して、日清紡一三〇、味ノ素四二〇、宝酒造一二五〇、日石一一〇〇、丸善五〇〇、川鉄一五三八、住金二六四〇、芝電八五〇半分、イスズ七五〇、東工業一〇〇〇、電力東京二〇〇〇、電力関西七三三〇、大阪ガス三三三〇、同火一〇〇〇、との記載がある。これは以下にふれる第二、第三のノートとも関連して前記のような疑をおこさせる。

ノートの第二は、大日本紡績株式会社等の文字が印刷してある紙でカバーしてある大学ノートの大きさのものである。これには、はじめから三分の一位の枚数をめくつたところに、横書きで「小生株高底控三四年七月四日初メ」との記載があり、そこから、同日以降昭和三六年二月末頃に至るまでの間の、ほぼ毎日の、自己の権利に属する株式の価格合計と同投資信託価格合計を記載し、増資新株の払込、株式処分、現金有高等についても若干記載している。さらに、その昭和三六年三月六日の欄(本件相続開始時の前日)以降同年四月中頃に至るまでの間の欄には、増資払込予定等を意味すると思われる東京芝浦電気三五〇株、一七五〇〇円込、関西電力七一三〇〇円込七三三株(この数字の意味は明確でないが)、宝酒造五〇〇株二五〇〇〇円込、大阪ガス三三二〇〇円五〇〇株込、東洋工業五〇〇株二五、〇〇〇円込の記載がある。このノートも、他の資料と相俟ち、相続開始当時の株数が、第一のノートの前記一月一日当時とほぼ同数であつたのではないかを疑わせる。

ノートの第三は、小型のノー卜である。これには、右の第二のノートの株価合計を算出するためとみられる計算の記載がある。それは、株式の各銘柄ごとに時価合計額を計算し、更にそれを合算して総計をだしているもので、日付入りの計算もある。日付入りのものは昭和三五年九月二日以後同年中のが少くとも計七つあり、昭和三六年のものが、同年一月八日、一月一五日、二月四日の、少くとも三つある。手持ち現金の記載らしいものも一部にある。

これら三冊のノートの記載を対照するとそれは、互に相関連しており、この三つのノートを綜合してみると、第一のノートの前記昭和三六年一月一日現在における株数有高の記載はつよい根拠をもつようにみえ、また(同和火災株のようにこの後に「売」の記載をしているものを除いては)ほとんどの株式はその以後相続開始時まで数字は殆ど変動がなかつたのではないかの、かなり強い疑をもたせるに足る。もつとも、これらのノートの記載から引き出せる株数は本件記録中の証拠資料(とくに当裁判所からの照会に対する各会社からの、株主名簿に基く回答書)にあらわれた数字よりも、なおかなり多く且つそれ以外の銘柄の株式をも含んでいるが、これは被相続人が他人名義のままでかなりの数の株式を有していたからだと推側することも不可能ではないようである。このようにみれば、本件において当裁判所が認定した前記(三)の株式(および後記の三の株式等)のほかに、実質的には遺産に属した多数の株券が存在していたとの疑はこれをぬぐいさることができない。しかし、この探究は、別個の手続によることを適当とし、本件の手続では困難である。それで、この審判では、右のノートの数字による断定は行なわず、これを一つの資料として参酌するのにとどめた。(なお各会社の回答書は株主名簿の記載に基くものであるから、これらの回答書の記載のうちで本件相続開始後最初の決算期までの間の譲渡に関する記載は、場合によつては、実際には相続開始時前の処分によるものということもありうる。このことをもちろん考慮しつつ、本件各関係人の主張、前記ノートとの対比において認定したわけである)。

三、相続分算定のためにいわゆる持戻されるべき贈与の価額(本田修へ贈与されたもの)

(1)  東京電力株式会社株券一五〇株(単価五〇六円、総額七万五、九〇〇円)。ただし、一〇〇株券、五〇株券各一枚

(2)  いすず自動車株式会社株券五〇〇株(単価一五〇円、総額七万五、〇〇〇円)。ただし、五〇〇株券一枚のもの。

(3)  丸善石油株式会社株券五〇〇株(単価一〇九円、総額五万四、五〇〇円)

(4)  川崎製鉄株式会社株券一〇七六株(単価七一円、総額七万六、三九六円)

(5)  東洋工業株式会社株券五〇〇株(単価一九三円、総額九万六、五〇〇円)。ただし、五〇〇株券一枚

(6)  東京芝浦電気株式会社株券五〇〇株(単価一六〇円、総額八万〇、〇〇〇円)。ただし、五〇〇株券一枚

(7)  宝酒造株式会社株券七五〇株(単価一二九円、総額九万六、七五〇円)。ただし、五〇〇株券、五〇株券各一枚、一〇〇株券二枚

(8)  第2回江口の投資信託(江口証券株式会社)一〇口

(基準価格九、五一三円、総額九万五、一三〇円)

第3回江口の投資信託(同会社)二〇口

(基準価格九、七五三円、総額一九万五、〇六〇円)

(9)  第86回ユニット投資信託(野村証券株式会社)一二〇口

(基準価格六、二〇二円四五、総額一二万四、〇四九円)

これらの認定根拠は二、(三)記載したのと同様である。(4)は川崎製鉄株式会社からの回答書の記載からも、前記ノートの記載からも一、六一四株と認定するのが当然のようであるが、本件関係人の一致した陳述にしたがいこの審判では一、〇七六株とする。

これらは被相続人が養子縁組前に本田修(当時上田修)に贈与したものであるが、記録中の関係人作成の書面、上田京子の本人尋問の結果、家庭裁判所調査官の調査報告書を綜合すると、贈与の経過は次のとおりと認められる。被相続人は男嗣子をつよく望んでいたので、上田辰男、上田京子夫妻に対し、自分の孫にあたる上田修との養子縁組を承諾してくれるようたびたび頼んでいた。上田夫妻は、難色を示していたが、上田辰男の母上田いとのあつせんで、昭和三五年一二月頃か昭和三六年一日頃、養子縁組をすることの話ができた。これらの株券等は、その頃、被相続人が縁組の話がきまつたことをよろこび、修の大学へゆくときの費用にしてほしいといつて、修への贈与の意思を明かにし、これを上田いとに預けたものである。養子縁組の届出は、その後同年二月二四日(被相続人の死亡の一一日前)にされた。そこで、この贈与は修が推定相続人となつていないときのことではあるが、実質はこのように、被相続人と修とが養子縁組をすることがきまつたからされたものである。右のような場合の、右のような大学の学費としての贈与は、民法第九〇三条第一項に準じ、相続分算定のために、相続財産に加算されなければならない。これと反する相手方らの見解は到底採りえない。

(申立人へ贈与されたもの)

家庭裁判所調査官の調査報告書によると、申立人は昭和三一年二月頃、被相続人から、金借していたが、相続開始の四、五日前、被相続人からそれはやるからといわれたことが認められる。この金額については申立人のいう一〇万円をくつがえす証拠もないので、一〇万円として計算する。これもまた、相続分算定のために、相続財産に加算されなければならない。

四、相続分

以上のとおり、相続開始当時における被相続人の遺産および民法第九〇三条によつて遺産に加算されるべき贈与の額を計算すると

不動産 二四万四、四〇〇円

銀行預金 二三万一、四二〇円

株式 八二万二、〇八〇円

相手方本田修に贈与されたもの 九六万九、二八五円

申立人に贈与されたもの 一〇万〇、〇〇〇円

合計 二三六万七、一八五円

となり、したがつて、

申立人の相続分は、その三分の一から一〇万〇、〇〇〇円を控除した六八万九、〇六一円で、結局、分割すべき遺産に対しその

689,061/1,478,122

相手方本田修の相続分は、同じく三分の一であるが、それ以上のものを贈与されているから、結局うるべき相続分なし

相手方上田京子の相続分は、同じく前記合計額の三分の一である七八万九、〇六一円で、結局、分割すべき遺産に対し、その

789,061/1,478,122

ということになる。

五、相続財産の相続開始後の状態と現存するものの評価

(一)  不動産

これは相続開始当時のままであるが、鑑定人田辺好の鑑定を参酌し、この分割時の評価としては、(1)の宅地二五万五、〇〇〇円、(2)の家屋八万〇、四〇〇円と認定する。

次に右家屋について、林たみは、昭和三七年三月分以降現在までの家賃として、一ヶ月金三、五〇〇円宛の割合の金員を、神戸地方法務局明石支局に供託している。しかし、既述のとおり、同人の右家屋使用関係は本件における資料からみるかぎり賃貸借であるとは認め難いから、この供託は無効と解するほかはなく、同人に対する、右と同期間、同金額の損害賠償請求権が依然として存することとなる。(なお、これら不動産についての昭和三六年度から昭和三八年度までの固定資産税は上田京子の側で納付済であるが、同人の側では、林たみから、一ヶ月金三、五〇〇円の割合で、昭和三六年四月分以降三七年二月分まで、家賃額相当金員を収受したと認められる)

(二)  銀行預金なし

株式会社○○銀行○○支店長の当裁判所宛昭和三八年三月二四日付回答書では、本件遺産である同銀行に対する預金は調停中である昭和三七年三月二四日に解約となつたとのことであつたが、これは後の昭和三九年一二月中の回答において別紙第三目録記載のとおり昭和三六年三月二四日解約と訂正された。なお、本田修の後見人上田辰男は、このことに関する当裁判所の照会に対し回答せず、当裁判所の本人尋問期日にも理由を示さずに出頭しない。

(三)  株式(前記三記載のものは除く)

上田辰男、上田京子両名提出の「調停に対する上申書」(昭和三七年八月二日受付のもの)、上田京子に対する本人尋問の結果及び家庭裁判所調査官の調査報告書を併せ考えると、これらは、帳簿の類、被相続人の印章、鍵などとともに、はじめ、申立人、相手方上田京子、および本田文子の話しあいで本田文子に預けられ、次いで、初七日を終えたのち、同女から上田辰男夫妻に渡され、爾来同夫妻の共同保管したところである。上田辰男は、その後昭和三六年九月一二日、相手方本田修の後見人に選任されたものであつて、以後同人の共同保管の資格は本田修の後見人としてのそれであると認むべきである。ところがそれら株式の、その後の状態は次のとおりである。

(1)  日本石油株式会社株式

別紙第三目録記載の経過により、一〇〇株しか残存しない。

(2)  日清紡績株式会社株式

別紙第三目録記載の経過により、二五四株存在する。

(3)  味の素株式会社株式

別紙第三目録記載の経過により、三〇株しか残存しない。

(4)  いすゞ自動車株式会社株式

別紙第三目録記載の経過により、なし。(いすゞ自動車株式会社からの回答書によると、被相続人名儀の株式は別表記載の時期以後も昭和三八年九月の決算期頃まで残存していたことが明かであるが、それは前記三に属する株式及びこれに対する増資株式であつて、遺産そのものには属しないものと認められる。)

(5)  東京電力株式会社株式

別紙第三目録記載の経過により、なし。(なお、この会社の株式は、三の本田修への贈与分の中にも、含まれているが、別紙記載のとおり、昭和三六年一〇月一六日増資による新株の取得およびその払込金額については、右贈与分との按分により、その四分の一が、この遺産分割において考慮されるべきものと解される。)

(6)  住友金属工業株式会社株式

別紙第三目録記載の経過により、三三九株しか残存しない。

(7)  大阪瓦斯株式会社株式

別紙第三目録記載の経過により、六六株しか残存しない。

以上の各株式について共通のことであるが、これらの遺産に属する株式における増資株は、反証のないかぎり、これまた分割の対象である遺産と認める。

次に、上田京子、上田辰男の昭和三七年五月一七日付「調停に対する上申書」によれば、同人らは、(7)の大阪瓦斯株式会社株式が一部は新株の払込のために(別紙第三目録記載の同年五月一日八三三株の増資)、他は、宝酒造株式会社増資株式五〇〇株、東洋工業株式会社増資株式五〇〇株、東京芝浦電気株式会社増資株式三五〇株の払込のために、本田文子と申立人との話しあいで処分されたので、右の各新株式は遺産に加えることが適当であるとしている。この増資新株払込のことは、前記二(三)において説明した「第二のノート」の記載及び、これら各会社の当裁判所に対する回答書の記載にも合致する。もつとも、これらの増資払込のための資金が、はたして(7)の株券の処分金か(二)の銀行預金の引出によるものか等々については確定し難いが、いずれにせよ、その資金は本来遺産分割の対象となるべき財産であつたものと推認できる。(なお、上田京子らは、(7)の大阪瓦斯株式会社株券の処分は同人ら不知の間に本田文子が申立人と話合の上でしたものとも主張するが、上田京子の明示または少くとも黙示の同意なくして、本田文子がそのような処分をしたとは認め難い。また、該株式処分により、申立人が遺産分割に先立ち、個人的に利得をおさめたと認めうる資料は何もない。)

右遺産たる新株については次のとおり(大阪瓦斯株式会社の新株については(7)の別紙第三目録中に記載のとおり)。

(8)  宝酒造株式会社株式

別紙第三目録記載の経過により現在はなし。(なお、同会社の回答書記載の配当額は、そのうち幾何が、この遺産たる新株式に対するものであつたか明確を欠くので、計上しない。)

(9)  東洋工業株式会社株式

別紙第三目録記載の経過により現在はなし。(なお昭和三八年九月一日の増資株五〇〇株のうち半数は、これまた分割の対象とすべき遺産に属し、同日現在で、右遺産としては七五〇株存したものと認められる。)

(10)  東京芝浦電気株式会社株式

不詳、(別紙第三目録記載のとおり昭和三七年五月三〇日において、分割の対象とすべき遺産に属するものが合計五二五株存したことが認められる。しかし、現在被相続人名義でのこの会社株式は一〇〇株しか残存しないが、これが、この遺産に属すべきものか、それとも前記三の贈与分に属するものかは明確を欠く)。

これらの株式数の変動に関し、当裁判所は本田修の後見人である上田辰男に対し、書面を以て照会したが、なんらの回答なく、同人はまた当裁判所の本人尋問期日にも、理由を示さずに出頭しなかつた。同人とその妻である相手方上田京子は、本件調停中である昭和三七年五月一七日受付「調停に対する上申書」なる書面においては、(7)の処分につき、前記のとおり記述したほか、さらにその残金は被相続人の葬儀費用にあてられた旨記述し、また、住友金属工業株式会社株券(6)の五〇〇株券二枚は本田修の後見人上田辰男と上田京子とが売却換金し、墓の建立に全部費消したとしている。しかし、葬儀費用への充当については、二の銀行預金引出のこともあり、香奠が相当額あつたことも当然予想されることだから、その明細を明かにしないので、右の記述だけで、ただちに、信をおくことは困難である。(なお同人らはその後の、同年八月二日受付の「調停に対する上申書」では、新たに右(7)の新株八〇〇株の処分にふれ、これを本田文子と申立人と話合いの上売却してその一部を葬式費用にあてたものであるとし、また新たに(5)の東京電力株式会社株式のうち遺産である五〇株の処分にふれ、且つ(6)の住友金属工業株式会社株式の処分は、一〇〇〇株でなく、五〇〇株券、一〇〇株券各二枚の一二〇〇株であり、この(5)、(6)は本田文子と上田京子との話合いで売却の上、代金の一部を昭和三六年八月七日墓地、墓石建立に、残金を一周忌法要に使用したと記述している。しかし、これら各会社の当裁判所への回答書の記載をその決算期を考慮にいれて検討してみても、(7)の新株を葬式費用に、(6)のうちの一〇〇株券二枚、(5)の五〇株券一枚を墓地墓石費用にあてたと認めることは困難である。)

次に、これらの株式(前同様に三記載のものを除く)の増資払込に要した額およびこれら株式による配当金額は別紙第三目録記載のとおりである。これらの配当金額は上田京子夫妻が受領したものと認められる。

(四)  葬式費用等

この費用の明細、香奠の額の明細を明かにする資料がえられないが、このさしひきでは、おそらく数万円の出損で、多く見つもつても一〇万〇、〇〇〇円までと推定する。(なお上田京子の本人尋問の結果と前記のノートからは、被相続人が数万円の現金を有していてこれによって葬式費用をまかないえたのではないかとの推測も可能であるが、未だ確信をうるには至らないので、この遺産分割では前記のとおり葬式費用として一〇万〇、〇〇〇円を計上する。)

また、相続開始後において相続人らの共同の費用として、墓地、墓石及び一周忌法要等の費用が考えられる。本件ではこれを明らかにする資料がえられないが、一に記述した相続人らの状況からみて、多くみつもつても一一万〇、〇〇〇円までと推定する。

ところで、以上のような各費用の負担者が誰であるかについては、本件では特別な慣習を見出すことができないから、各相続人が分担しなければならない。したがつて、前記のように、相手方側は、これらの費用を本件相続財産の処分を以て調達したとの主張をしてはいるが、(もつとも、その一々についてこれを確認するに足る資料がない)いずれにせよ、本件遺産分割では、相続財産を以てするこれらの費用の支弁は(本田修が負担すべき三分の一相当額をのぞいて)金一四万円の限度で、しんしやくするのにとどめなければならない。

(五)  本件において、以上のように、相続財産に著しい変動が加えられたが、申立人個人の利得に供せられたものは認められない。本件において相続人共同の費用として、固定資産税納付、増資新株式払込、および右(四)の費用を計上したが、これ以外には、相続人共同の費用として、本審判で計上を要するものは見出せない。

以上の相続財産の処分がどのような使途のためになされたかの一々について上田辰男はこれを説明しないけれども、資料の現段階では、いずれにせよ、相続財産の処分と前記費用の支弁との差引金額相当額の利得は、おおむね、上田辰男と相手方上田京子夫妻により、相手方両名(あるいはそれに上田辰男自身をも加えた)の利得に帰せしめられたと推認する外はない。

本件相続財産が、このような処分にあわず、すべて残存しているものと仮定した場合、分割すべき遺産の総額のだいたいは次のとおりである。

(イ)  不動産(別紙第一目録) 三三万五、四〇〇円

(ロ)  林たみから相手方上田夫婦が収得した金員と同人らが支払つた固定資産税との差額

三万四、八四六円

(ハ)  右不動産を林たみが使用してきたことに基く損害賠償請求権で昭和三七年三月一日以降昭和三九年一二月末までとして合計 一一万九、〇〇〇円

(ニ)  銀行預金(解約時以後の金利は複雑をさけて一応計上せずにおく)二三万四、四四六円

(ホ)  株式(当初の株式数及びその後の現実の増資取得株数にとどめる。これにつき、ここでは別紙第三表記載の昭和四〇年一月九日の価格で計算する。この額は相続開始当時の価格と比較すれば、大部分のものは非常に低い。九六万四、六一六円

(ヘ)  増資払込額等株式取得費用と配当金額の差(金利は複雑をさけて一応計上しないでおく)

マイナス八万八、五〇〇円

(ト)  葬式等の費用、墓地墓石等の費用として、相続財産を以てする支弁が首肯できる限度

マイナス一四万〇、〇〇〇円

以上合計一四五万九、八〇八円となり、この数字を前提として申立人の相続分を算定すれば一応その689,061/1,478,122として六八万〇、五二三円が、また相手方の相続分としてその789,061/1,478,122である七七万九、二八四円が計上される。これは金利問題を計上しておらず、また、さらに資料が追加されれば金額に若干の影響があらわれることもありえないではないので確定的なものではないが、基準を分割時に最も近接させた時点にとるかぎり、大幅な差異は考えられない。むしろ、右計算は株式については、ここ二、三年間のうちでの低い額であるので、相続財産を処分して利得をおさめたものは、この計算による場合以上の利得をえたものと考えうる余地がある。

六、分割

ところで、現在時の遺産は、まず、右五、(五)(イ)(ハ)に記述したものと別紙第二目録記載のわずかな残存株式とであるが、これらの昭和四〇年一月九日(分割時に近い時点)における価値は計五三万八、〇六四円にすぎない。これは、申立人のうけるべき相続分に(資料の現状を考慮して、仮に前記のものよりさらに低額にみつもつてみるとしても)遙かに及ばないものということができるので、五(五)に記述したところにかんがみ、これを申立人に取得させる。相手方上田京子および相手方本田修に対し、その共同保管のこれら第二目録記載株式を申立人に引渡すよう命ずる。(後見人上田辰男の保管は後見人としてのそれに外ならないと推認する。)

相手方上田京子にはこれを取得させることはできない。また相手方上田修には四に記載したとおり、うけるべき相続分がない。

次に、右以外の遺産(むしろ遺産のいわゆる代償財産と称するのが適切であろうが)として、本件相続財産の多くが失われたことに関し、その原因に応じて、一方の遺産相続人から他方の遺産相続人や第三者に対して有すべき損害賠償請求権、不当利得返還請求権などが考えられる。しかし、この関係は細部にわたつていえば権利の成否、程度、範囲につきなお審理を必要とするもので、民事訴訟の手続で確定するのを相当とする。

よつて、家事審判法第七条、非訟事件手続法第二八条、第二九条により、主文のとおり審判する。(なお関係人は費用額の計算を求めることができる。)

(家事審判官 山下顕次)

別紙

第一目録

(1) ○○市○町八三番の七

一、宅地四坪二勺

(2) ○○市○町八三番の一地上

家屋番号弓町一番の三

一、木造瓦葺二階建店舗兼居宅一棟

一、二階とも各四坪二勺

第二目録

日本石油株式会社株券一〇〇株

日清紡績株式会社株券二五四株

味の素株式会社株券三〇株

住友金属工業株式会社株券三三九株

大阪瓦斯株式会社株券六六株

第三目録

五(二)

○○銀行○○支店における普通預金

昭和36年

摘要

出金額(円)

入金額(円)

差引残高(円)

相続開始時

231,420

現金

100,000

13

利息

2,972

17

現金

100,000

24

利息

54

24

解約

34,446

五(三)(1) 日本石油株式会社株式

株式数

税引配当金

支払年月日

摘要

相続開始時

1,100

(円)

以下期別

36年3月

3,713

支払確定日

36.5.29

年1割5分

1株につき3円75銭

〃9月

36.12.5

37年3月

37.6.2

〃9月

2,970

37.12.6

年1割2分

1株につき3円

38年3月

3,135

38.7.9

〃9月

〃12.20

39年3月

39.6.8

書換年月日

39.9.8

(残)100(1,000株譲渡のため)

(昭和40年1月9日の1株の価格 105円) (相続開始時の価格は本文記載のとおり、以下同じ)

五(三)(2) 日清紡績株式会社株式

年度(期別)

株式数

税引配当金(円)

配当金支払確定日

36.4(104)

130

644

36.6.23

36.10(105)

130

644

36.12.22

37.4(106)

179

726

37.6.22

37.10(107)

179

726

37.12.21

38.4(108)

179

766

38.6.22

38.10(109)

179

766

38.12.24

38.4(110)

179

779(端株0.18株の分配金13円含)

書換年月日

39.4.26

254(増資75株を取得したことによる。この払込1株40円計3,000円払込期日39.4.16)

(昭和40年1月9日の1株価格 156円) 五(三)(3)

味の素株式会社株式  1.株式の異動

株式数

摘要

相続開始時

420

本文記載のとおり認定

以下書換年月日

36.7.14

譲渡200

220

割当日36.7.20株主有償割当1.対0.5払込金額1株につき50円 計5,500円

36.10.1

増資新株取得

110

330

39.3.2

譲渡200

130

39.3.30

譲渡100

(残)30

(昭和40年1月9日の1株の価格 285円) 2.配当金(税引)

年度(期別)

配当率

株数

金額(円)

36.3.31(69)

年2割2分

420

2,079

36.9.30(70)

220

1,089

37.3.31(71)

年2割

330

1,485

37.9.30(72)

330

1,485

38.3.31(73)

330

1,563

38.9.30(74)

330

1,568

39.3.31(75)

143

五(三)(4) いすゞ自動車株式会社株式  1.株式の異動

摘要(減)

株式数

相続開始時

250

他に500株(500株券1枚)があるがそれは本田修へ贈与されたものである。

以下書換年月日

36.8.4

200株譲渡

50

36.8.9

50株譲渡

(昭和40年1月9日の1株の価格 67円) 2.配当金(税引)

年度(期別)

金額(円)

36.4(45)

900

このときの本田吉男名義の株式に対する税引配当金は他に1,800円あるがそれは本田修へ贈与された株式に対するものと認めるのが相当である。

五(三)(5) 東京電力株式会社株式  1.株式の異動

株式数

相続開始時

50

他に150株あるが、それは本田修へ贈与されたものである

以下書換年月日

36.10.16

増資新株25株取得

75

このときの増資新株取得数は計100株であつたが、上記贈与株数との按分によりうち25株が分割の対象である遺産に属すると認めるのが相当である。

なお増資払込金額は1株につき400円であるから上記25株分で計10,000円

37.2.10

16

全部

譲渡

(昭和40年1月9日の1株の価格 701円) 2.配当金

1株につき年1割  決算日3月末 9月末の年2回  五(三)(6)

住友金属株式会社株式  1.株式の異動

減(譲渡)

株式数

摘要

相続開始時

1,728

株式名簿上は2,643株あることになつているが本文記載のとおり認定

以下書換年月日

36.4.1

(無償交付)51

1,779

36.6.23

179

1,600

36.6.23

100

1,700

(取得価格詳細不明)

36.9.13

500

1,200

36.9.16

500

700

36.9.18

500

200

36.10.1

(無償交付)6

206

37.4.1

(無償交付)6

212

37.8.20

(増資払込)127

339

払込1株45円

計5,715円

(昭和40年1月9日の1株の価格 56円) 2.配当金(税引、なお端株処理代金を含む)

期別

金額(円)

決算確定日

24

2,333

36.5.27

25

270

36.11.28

26

278

37.5.25

27

652

37.11.28

28

848

38.5.28

29

848

38.11.27

30

848

39.6.8

五(三)(7) 大阪瓦斯株式会社株式  1.株式の異動

減(譲渡)

株式数

摘要

相続開始時

2,500

本文記載のとおり認定

以下書換年月日

36.4.19

1,000

1,500

〃4.28

500

1,000

〃5.1

増資新株取得

833

旧1,000

新833

3対1割当1株につき40円払込(10円無償)

〃5.19

旧1,000

833

計33,320円

〃6.28

33

800

38.6.1

増資新株取得

266

1,066

1株につき40円払込

計10,640円

〃8.31

1,000

66

(昭和40年1月9日の1株の価格 91円) 2.配当金(税引)

期別

期間

金額(円)

130

昭和36.1.1より同年6.30まで

735

131

36.7.1~12.31

2,160

132

37.1.1~6.30

133

37.7.1~12.31

134

38.1.1~6.30

2,407

135

38.7.1~12.31

189

136

39.1.1~6.30

189

五(三)(8)  宝酒造株式会社株式  1. 株式の異動

昭和36.5.1払込の増資新株式数500株  この払込金額25,000円

その後株式名簿上昭和36.12.23に500株譲渡、また昭和37.8.3にも500株譲渡とあり、このいずれかの譲渡により、分割の対象とすべき遺産としては株式0となる。

(昭和40年1月9日の一株の価格 42円) 2. 配当金

昭和37年3月期に3,191円あるが、本件分割の対象とすべき遺産に対するものかどうか確定できないので計上しない。

五(三)(9)  東洋工業株式会社株式  1. 株式の異動

昭和36.5.1払込の増資新株式数500株、この払込金額25,000円

その後、昭和38.9.1払込の増資新株500株あり、本田修への贈与株数との按分により、うち250株が分割の対象たる遺産に属したと認定する。この払込1株につき50円であるから250株分で計12,500円

その後株主名簿上、昭和38.10.31と39.2.29の二回にすべての株式を譲渡したので株式零となる。

(昭和40年1月9日の1株の価格 119円) 2.配当金(税込)

期別

金額(円)

摘要

36年10月

2,250

本田修への贈与株数との按分により配当金額の二分の一を計上した。以下同じ

37年4月

2,250

〃10月

2,250

38年4月

2,137

五(三)(10) 東京芝浦電気株式会社株式  1.株式の異動

昭和36.4.1増資新株割当引受 350株  この払込金額17,500円

その後昭和37.5.30増資新株割当引受425株あり、本田修への贈与株数との按分により、うち175株が分割の対象たる遺産に属したと認定する。この払込一株につき45円計7,875円

この段階での分割の対象たる株数合計525株  その後株主名簿上昭和38.9.5と39.3.17と39.9.30の三回に株式を譲渡し、本田吉男名義の株式の残は100株となつたが、これが分割の対象たる遺産に属するものか本田修への贈与分かの区別は困難

(昭和40年1月9日の1株の価格 74円) 2.配当金(税引)

期別

金額(円)

配当金支払確定日

109

1,181

36.11.29

本田修への贈与分との按分による

110

37.5.29

以下同じ

111

1,371

〃11.29

112

1,621

38.5.28

以下は分割の対象たる株式数不詳のため配当額も計上できない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例